「メンタルロード(mental load)」という言葉を聞いたことはありますか?
直訳すると「精神的な重荷」「心の負担」という意味です。
英語圏では「頭の中で抱えている“見えない家事”」や、「家族の予定や生活を滞りなく回すための段取り・気配り・判断」のことを指します。
日本ではまだあまり知られていないこの概念、
実は育児や家事に疲れを感じている方にこそ、ぜひ知ってほしいキーワードです。
では、実際にどんな場面でメンタルロードが生じるのでしょうか。
以下に、家事と子育てそれぞれの場面を挙げてみます。
【家事に関すること】
段取り、在庫管理、計画や調整など
【子どもに関すること】
予定把握、成長への対応、情報収集など
こうした「考えておく」「先回りして気づいておく」作業は、手を動かす家事とは違い、頭の中で静かに、しかし確実に行われています。
そして、この“気づいて考えておく仕事”こそが、メンタルロード。
どれも誰かが担わなければならず、多くの家庭ではその役割が偏りやすいのです。
- 家事や育児に追われて、なんとなく “いつも疲れている” 方
- 家事分担しているはずなのに、なぜか “自分ばかりが気を張っている” と感じる方
- 子どもの予定や準備、家族の段取りを “気づいたら自分がやっている” 方
- パートナーに頼むより “自分でやった方が早いと感じている” 方
- 誰にも気づかれない “「頭の中の仕事」にモヤモヤしている” 方
メンタルロードとは?

メンタルロードは、家事や育児における“考える・気づく・計画する”負担のことです。
実際に手を動かす作業ではなく、その前段階の「段取り」「判断」「確認」が積み重なることで、目に見えないストレスを生み出します。
どのような場面でメンタルロードが発生するのか、具体例を見てみましょう。
家事に関するメンタルロード
- 日用品や食材の在庫を把握して、補充や買い物のタイミングを調整する
- 献立を考え、調理の段取りを頭の中で組み立てる
- ゴミ出しのルールを把握し、回収日までにまとめるように逆算する
- 来客時や季節の変わり目に向けた掃除・片づけのタイミングを計画する
子どもに関するメンタルロード
- 保育園や学校の持ち物・提出物・行事予定を把握し、準備を進める
- 習いごとのスケジュール管理と送迎計画の調整
- 成長・発達段階に応じた情報収集(睡眠、食事、教育など)
- 子どもの服や靴のサイズアップ・季節物の入れ替えを見越した買い物
- 病気や通院の対応、予防接種の時期や医療機関の調整
- 家族内で「誰がいつ見るか」「誰(どこ)に預けるか」の事前段取りと相談
- 友人との交流やトラブルへの対応、SNSや習慣の管理など(年齢が上がるほど複雑化)
いかがでしょう。
多くの方が一度は経験したことのある場面ではないでしょうか。
経験や気配りが豊富な人ほど、家庭内で 気づく係 になりやすい傾向があります。
よく気がつくことは長所でもありますが、意識しないと頭の中がタスクであふれてしまいます。
このように、タスク管理が一人に集中してしまうことが、メンタルロードの発生に直結します。
ここからは、どのような人がメンタルロードを抱え込みやすいのかを見ていきましょう。
メンタルロードを抱え込みやすい性格傾向

以下のような性格や傾向を持つ人は、知らず知らずのうちに気づく係になりがちです。
傾向 | メンタルロードとの関係 |
---|---|
責任感が強い | 気づいたら「自分でやらなきゃ」と思いやすい |
完璧主義 | 小さなミスを避けたくて段取りを詰めすぎる |
空気を読むタイプ | 指示がなくても「こう動いた方がいい」と察して行動 |
周囲に気を遣う | 相手を気づかわせないように自分が先回り |
コントロール志向が強い | 自分で全体を把握しないと落ち着かない |
このような性格は良い面もありますが、見えない家事や思考タスクを過剰に背負い込む原因にもなり得ます。
さらに、こうした性格傾向は ゲートキーピング と呼ばれる門前行動に影響を及ぼすこともあります。
これは家庭内の仕組みがうまく機能しない要因となり、結果としてパートナーとの関係性に負担を与えることがあります。
メンタルロードを軽減するためには、パートナーの理解と協力が欠かせません。
そのためにも、次の点を意識して振り返ってみることが大切です。
- 自分が門前行動をしていないか
- パートナーがそうした状態に陥っていないか
こうした視点を持ち、ゲートキーピングを理解することが、結果的にメンタルロードの軽減につながります。
負荷を軽くするには?

では、この見えにくい負担を、どうすれば軽くできるのでしょうか?
ここでは、日々の暮らしの中で取り入れやすい3つのポイントをご紹介します。
- ① タスクを可視化する
-
やらなければならないことを、書き出して見えるようにする。
- ホワイトボード/LINEグループ/メモアプリの共有など
「気づいた人=やる人」にならない仕組み作りが大切。
- ② 考えるタスクも家族と共有する
-
「献立、どうしようか?」と相談ベースの声かけを意識する。
頭の中で完結しそうになったら、「いま、こういうことを考えてる」と外に出す。
- ③ 性格を責めない。「仕組み」で補う
-
責任感や気遣いがあるのは悪いことではありません。
自分のキャパを超えているなら、手放す工夫(=仕組み化)が必要。
我が家のメンタルロード
私が直近で強く感じたメンタルロードと、家庭内での仕組み化に関する体験談です。
もし関心がなければ、この部分は読み飛ばしていただいて大丈夫です。
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私がメンタルロードを強く感じたのは、子どもの入園準備のときです。
(何を揃えたらいい?)
(名前はどこに書くよう指定されていたっけ?)
(提出書類と期日はいつだっけ?)
気づけば寝る前まで持ち物や段取りのことで頭がいっぱいでした。
やるべきことを一つ終えるたびに次のタスクが自然と浮かび、心が休まらない状態が続いていたのです。
入園説明会の資料を読み込み、袋物や着替えのサイズを確認し、必要な数を逆算してリスト化。
育児の合間を縫ってグッズを注文し、制服のサイズ調整まで済ませました。
目には見えないけれど、頭の中では常にタスクが回っている。
それが 見えない仕事 だったのだと気づけたのは、すべてが一段落した後のことでした。
当時、妻は資料をほとんど読まず、状況を把握していない様子でした。
そんな中で「これお願い」と頼む気力すら残っていません。
説明すること自体が面倒でしんどい。
「お願いするより自分でやった方が早い」と思い、いつの間にか全てを背負い込んでいました。
私は、人に任せるより自分でやるのが好きな性格です。
でもある時ふと思いました。
「これは自分の性格の問題だけじゃなくて、家庭の“仕組み”の問題かもしれない」と。
そう気づいてから、少しずつ仕組みを変える行動を始めました。
必要なものをメモにして“見える化”し、買い物をお願いする。
持ち物の記名など、小さなタスクを手伝ってもらう。
これだけでも心の負担がぐっと軽くなり、メンタルロードが少し和らいでいくのを感じました。
まとめ
「私って気にしすぎ?」
「もっと適当にできたら、きっと楽なんだろうな…」
そんなふうに自分を責めたことはありませんか?
けれど、それは決して“気にしすぎ”なんかではありません。
あなたが疲れていたのは、気づく力があるからこそ。
その力が、無意識のうちに“気づきすぎてしまう状態”を生み出し、知らず知らずのうちに、誰にも見えない荷物を一人で抱えていたのかもしれません。
でも、どうか忘れないでください。
メンタルロードは、あなたの性格のせいではなく、構造の問題です。
「自分が気づけば早いから」
「任せるより、自分でやったほうが確実だから」
そんな思考習慣が、気がつけばあなたをひとりにしていたのかもしれません。
だからこそ、今からでもできることがあります。
まずはその負担に「名前」があることを知り、
そして、“見えないタスク”を少しずつ外に出し、周囲と共有すること。
完璧でなくても大丈夫。
考えることを手放していく、そのプロセスこそがあなた自身の育児や暮らしをアップデートしていく一歩になります。

