「まだオムツなんですね。なるべく入園までに取れているといいですね。」
幼稚園の見学先でかけられた一言に、胸の奥がギュッと締めつけられた——そんな経験はありませんか?
わが子のペースを大切にしたいと思いながらも、周囲の言葉や育児情報に触れるたび、「うちの子だけ遅れているのでは?」「やり方が間違っていたのかも…」と焦ってしまう。
本記事は、そんな《トイレトレーニングに不安や悩みを抱えるすべての保護者》の方に向けて書きました。
- トイトレが思うように進まず、原因がわからず戸惑っている方
- 周りの子と比べて落ち込んでしまっている方
- 情報通りにやっているのに成果が出ず、焦りを感じている方
実は、トイレトレーニングには“これさえやれば成功する”という万能な方法はありません。
でも、ある大切な前提があります。
それは、
発達・環境・子どもの気持ち——この3つの条件がそろって、はじめてスムーズに進むということ。
どれかひとつでも欠けていれば、うまくいかなくて当然なのです。
それは、親のせいでも、子どものせいでもありません。
本記事では、トイトレが進まない原因をこの3つの視点から整理し、子どもに合った関わり方を見つけるヒントをお届けします。
- トイトレが進まないときに見直したい「3つの条件」
- 発達・環境・気持ち、それぞれのつまずきの具体例
- 子どもの“やってみよう”を引き出す関わり方
- 焦りを手放し、前向きに見守るための親のマインドセット
トイトレ成功の秘訣「3つの条件」

トイトレがうまくいかないとき、多くの親は「やり方が間違ってるのかも…」「うちの子だけ遅れているのでは?」と悩んでしまいます。
でも実は、発達・環境・本人の気持ちという3つの条件がそろって初めて、トイトレはスムーズに進むものです。
うまくいかない原因は、親でも子どもでもなく、まだその時ではないだけかもしれません。
以下の3つの視点から見直してみると、思い当たる点が見えてくるかもしれません。
① 発達段階が整っていない(身体・言語・神経の準備)
トイトレが進まない理由のひとつは、子どもの体や心の発達がまだ準備段階にあることです。
- 尿意や便意の感覚がまだ曖昧
- 我慢する力、伝える力が未成熟
トイレに行くという行動は、大人にとっては当たり前でも、
子どもにとってはいくつものステップを同時にこなす“高難度スキル”です。
具体例
- 気づいたときにはすでにおしっこが出てしまっている
- 「おしっこ」と言いたくても、うまく言葉にできない
- トイレに座っても、どうすればいいのかわからない
このような場面が続くと、「教えてもできない…」と親は不安になりますが、それは本人の努力不足ではありません。
親の視点(マインドセット)
「何度教えてもできない」ではなく、「まだ準備が整っていないだけ」と捉えることがとても大切です。
子どもの膀胱はまだ小さく、尿をためておく力も弱い状態です。
さらに、トイレに行きたいと感じてから実際に排泄するまでには、
内臓からの微細なサイン(内臓感覚)
に気づく必要がある
それが尿意だと認識するには
脳の発達と経験が必要
「行きたい」と自分の状態を他者に伝える
スキルが求められる
骨盤底筋などを使って
一時的に排泄を止めるのは高度な調整
行動を切り替え、ルートを思い出し
自分で向かう判断力が必要
手指の操作、順序理解、そして
「トイレは怖くない」という安心感が必要
「今は出していい」と判断し
筋肉を弛緩させる最後の難関
という、いくつものステップを認識して行動に移す必要があります。
これには、脳(特に物事を順序立てて処理する力)や神経のはたらきが関わっており、
子どもにとって、とても高度なプロセスなのです。
でも、これらはまだ発達の途中なのです。
子どもは、生まれてまだ数年。
小さな体で、外の世界に一生懸命順応しながら、今まさに“できるようになる途中”にいるのです。
「なぜできないの?」ではなく、「今どこまでできているのかな?」と見つめ直すことで、親の気持ちもふっと軽くなるはずです。
② 環境やタイミングが合っていない
トイトレは、子ども自身が安心して取り組める環境があってこそ、初めて前に進みます。
しかし実際には、
- 親の都合やタイミングで無理に始めてしまう
- 入園準備や引っ越し、下の子の誕生などで子どもの生活が不安定
というように、トイトレどころではない状況で始めざるを得ないケースも少なくありません。
具体例
- 「春から園に通うから、今のうちにオムツを外さなきゃ」と始めたが、うまくいかず余計にイライラしてしまう
- 周りの子ができているのを見て、「うちもそろそろ」と急いだものの、子どもが拒否反応を示す
- 「3歳までに外したい」と目標を決めたが、下の子の出産と重なって親自身が余裕を失っていた
このように、家庭のスケジュールや大人の理想で始めてしまうと、子どもが戸惑ってしまうこともあります。
親の視点(マインドセット)
落ち着ける環境がなければ、子どもは「トイレに行く」という行動に集中できません。
そして、親の焦る気持ちは、驚くほど子どもに伝わります。
「早くできるようになってほしい」
「今このタイミングで進めておきたい」
——そんな気持ちが強くなると、声のトーンや表情にも出てしまい、子どもは無意識にトイレ=プレッシャーと感じるようになります。
トイレの場所・寒さ・使いにくさ・雰囲気など——
環境要因の小さな違和感が子どもの抵抗感につながることも。
今一度、「うちの子が安心して使える環境かな?」という視点で見直してみるのも一つの手です。
そして何よりも、**「今はそのときじゃないのかもしれない」**と受け入れることで、子どもも親も、トイトレに向かう空気が柔らかくなります。
「今」できなくても、環境が整った「そのとき」がきたら、子どもは自然と前に進みはじめます。
③ 子どもの気持ち・やる気が整っていない
たとえ発達や環境が整っていても、
子ども本人の「やってみたい」という気持ちが育っていなければ、トイトレはなかなか前に進みません。
- オムツのままが快適で、わざわざ変えたくない
- トイレが怖い場所と感じている
- 失敗して叱られた経験が残ってしまっている
このように、“気持ちが乗らない”状態では、トイレへの抵抗感が強くなって当然です。
具体例
- 補助便座を怖がって座りたがらない
- トイレに誘うと、「行かない!」「イヤ!」と怒る
- 成功しても「褒めてもらえない」「あっさり終わった」ことで、やる気が持続しない
- 失敗したときに叱られ、「また怒られるかも…」と不安になっている
こうした経験が重なると、トイレ=嫌な場所、苦手なことというイメージが強くなり、自然と避けるようになります。
親の視点(マインドセット)
子どもがトイトレを前向きに捉えるには、安心感と自己肯定感が欠かせません。
そのためには、無理に進めるよりも、「やってみようかな」と思えるまで待つ関わりがとても大切です。
子どもが“できた!”と感じる瞬間には、必ず「見てもらえた」「認めてもらえた」という気持ちが伴っています。
- 成功したら一緒に喜ぶ
- たとえ失敗しても「大丈夫だよ」と声をかける
- 「できるようになったらうれしいね」と未来に希望を持たせる
こうしたやりとりが積み重なることで、子どもの中にやってみたい気持ちが芽生えていきます。
一方で、親がイライラしていたり、成功しても淡々と終わらせていたりすると、子どもは「どうせ褒められない」「また怒られる」と感じ、ますますやる気をなくしてしまいます。
トイトレは教えるよりも、励ます・見守ることのほうがずっと大事。
「どうしたら子どものやる気が出るだろう?」という視点で関わってみると、トイレへの印象も変わっていくかもしれません。
3つがそろって初めて、トイトレは前に進む

ここまでお伝えしてきたように、トイトレが進まない原因はひとつではありません。
発達段階・生活環境・本人の気持ち——
この3つのうち、どれかひとつが整っていないだけでも、スムーズに進まないのは当然のことです。
お子さんは、今どの段階か見えてきましたか?
- 「もしかしたら、まだ発達が追いついていないだけかも」
- 「この時期に無理に始めたのが原因かもしれない」
- 「ちょっと“やってみようかな”と思える関わりが足りなかったかも」
どれも、誰もが通る道であり、改善できるポイントでもあります。
今できることは、焦って進めることではなく「整えること」
- 発達は、時間が解決してくれる領域です。
- 環境は、親が工夫して整えられる領域です。
- そして気持ちは、親子の関わりの中で育っていく領域です。
この3つを「できていない」と見るのではなく、
「あと少しで整いそう」「今は準備中」ととらえる視点が大切です。
トイレは教えるものではなく、“一緒に育てる習慣”。
その日のために、今は関係性と環境をゆっくり育てている途中なのです。
このように視点を変えてみると、うまくいかないことが失敗ではなく、成長の一部として見えてくるはずです。
我が家の“やる気スイッチ”が入るまで
我が家では、2歳ごろから親のトイレについてくるようになり、『こどもちゃれんじ』の絵本などでトイレに関心を持ち始めました。
アンパンマンの補助便座も導入し、「これはいけるかも!」と思ったものの——
最初の1回はうまくいったのですが、その後トイレを嫌がるようになってしまい、幼稚園入園の半年前までは様子を見ながら過ごしていました。
正直なところ、おむつのままの方が親子ともに気楽だったという面もあります。
そんな中、入園説明会で「できれば入園までにおむつが外れていると望ましい」と伝えられ、次第に焦りが募っていきました。
そこで、トイレにこだわるのではなく、安心できる体験やできた!という感覚を、日常生活の中で少しずつ積み重ねていくことに意識を向けるようにしたのです。
すると、入園の1週間ほど前にはおしっこに関しては、声をかけるとトイレでしてくれるようになりました。
そして入園の前々日には、自分から「トイレに行きたい」と言って排便にも成功。
その日を境に、毎回トイレでできるようになりました。
何がきっかけだったのか——
おそらくそれは、日々の小さな積み重ねが、少しずつ「やってみよう」という気持ちにつながっていった結果なのでしょう。
成功を急がず、失敗しても決して叱らずに「大丈夫だよ」と伝え続けてきたことが、トイレを“安心して行ける場所”として受け入れる土台になっていたのかもしれません。
トイトレのゴールは、単にできるようになることだけではなく、「やってみたい」「自分ならできる」と思える内面の準備が整うこと。
そのタイミングが、わが家ではちょうど入園直前に訪れた、というだけのことだったのだと今は思います。
まとめ
トイトレは、親の計画や育児書、ネットの情報どおりには進まないことがほとんどです。
でも、それは親のやり方が間違っているのではなく、子どもがまだ“準備段階にある”というだけのこと。
うまくいかないのは「まだその時ではない」——ただ、それだけの理由なのです。
今こそアップデートしたい親の視点
- 他の子と比べず、わが子のリズムを信じる
- できなくても、「今は準備期間」と受け止める
- 「子どもは必ずできるようになる」と安心して待つ
🌱 最終的にトイトレを進めるのは、「子どものやる気」
どれだけ環境を整えても、トイレに向かう一歩を踏み出すのは、子ども自身の「やってみよう」という気持ちです。
そのやる気は、ある日ふと芽生えるもの。
そして、「トイレでしてみる!」という言葉が、突然聞ける日が必ずやってきます。
だからこそ、親ができる一番のサポートは——
「今はまだその時じゃない」
でも、「きっとその日はやってくる」
そう信じて、親子の関係づくりと、トイレへの導線づくりを、できることから少しずつ始めていきましょう。

